ロースタイル ウッドファニチャーのパイオニア「バイヤー」。新シリーズ「パンジーン」にこめられた思い

ロースタイル ウッドファニチャーのパイオニア「バイヤー」。新シリーズ「パンジーン」にこめられた思い

ロシア移民の家族がはじめた、19世紀創業のテキスタイル会社

より大地に近いことから、自然を感じるキャンプのあり方として、シーンにすっかり定着したロースタイル。雰囲気のあるウッドファニチャーがマッチするとあって、国内外でさまざまなブランドが生まれたのだが、そのオリジナルともいうべき存在が、パインツリーステート(松の州)とも呼ばれるアメリカ・メイン州で、1880年に創業した「バイヤー(Byer of Maine)」。ホワイトアッシュを使った新シリーズ「パンジーン」の展開がはじまるなど、盛りあがりを見せるバイヤーについて、赤津孝夫会長に話をうかがった。

バイヤーが躍進するきっかけとなった木製フレームのコット。現在もヘリテージとして発売している。

「バイヤーはもともとロシア移民の家族がはじめた、19世紀創業のテキスタイル会社でね。第一次世界大戦のときにコットをつくって軍に収めて成功したんだよ。自分たちのテキスタイルにウッドのフレームを合わせたんだね」

その後、第二次世界大戦まで需要が続き、戦後もコットのほか、いまではラインナップにないバックパックやダッフルバッグなどを手掛けていた。

バイヤーのコットで、つかの間の休息を過ごす兵士たち。

「最初は単純にウッドのファニチャーが欲しくて、いろいろと探したんだけどあのころの日本にはなかった。そんななか、『Maine Made』という本を見つけた。メイン州はクラフトマンが多いところで、オーダーメイドの靴や焼き物、金属加工メーカーなど、いろいろなブランドや職人がカタログ的に掲載されており、そのなかのひとつがバイヤーだったんだよ。素朴でシンプルなデザインが気に入ったんだ」

この『Maine Made』との出会いがきっかけでスタートしたバイヤーの取り扱い。じつは他にも蜜蝋のキャンドルなどを試験的に仕入れたこともあるが、あまり売れなかった。

「取り扱いをはじめたのは1998年、当時の日本はまだディレクターズチェアが主流だったから“ロースタイル”を提唱していった。大地に近いほうが気持ちいいでしょ、って!」

2001年のカタログ。このころはチェアを種類も豊富にラインナップしていた。

それから程なくして日本にロースタイルブームがやってくる。そのさなか、バイヤーのウッドファニチャーはメインでの生産からベトナムへと移行してしまう。

「ちょうどアメリカ市場が変化していたころだったから、労働賃金とか小売価格の問題とかあって、致し方なかったのだろうけど、悔しかったよね」

そうしたいきさつを経て、商品の在り方に変化があった。

「アメリカでは焦げ茶色のウッドファニチャーのほうが人気あるらしい。ユーカリの木にステインで色付けした商品をつくりはじめたんだけど、これじゃ日本ではダメだなと思い、ファニチャーの取り扱いをやめたんだ」

それ以降も、バイヤーが取り扱っていたアマゾナスというブラジリアンハンモックの輸入をしていた。日本でもハンモックブームがやってきて爆発的に売れたんだけど、その影響ですっかりバイヤー=ハンモックブランドというイメージが定着してしまった。改めてウッドファニチャーとしてのバイヤーの魅力を伝えたいと思ってますよ」

アマゾナスのブラジリアンハンモック。コットンの比率が高いので肌触りがよく通気性もいい。そよそよと背中を通る風の心地よさといったら。

そこで、満を持して発売されたのが、「パンジーン」シリーズだ。

「パンジーンシリーズはホワイトアッシュを使ってるんだけど、これはベトナムにはない木なんだよね。それを北米やロシアから仕入れて、ほぼ日本のためだけに、現地でつくってもらってるんだよ。しかも同じ木でも個体差があるから、製品にするときはパーツ同士の色が合うように選んでくれている。本当によくやってくれているから、こちらもその誠意に応えないとね」

この「パンジーン」という言葉には、バイヤーの4代目社長ジェイ・シールズの思いがこめられている。「パンジーンとは、パンゲア大陸のことを表している。パンゲア大陸とは、世界の陸地がひと続きだった時代の超大陸のこと。ベトナムに生産拠点を移したことにもつながるんだけど、社長のジェイさんはベトナム戦争で大きな被害を受けた地域にある工場にお願いをして生産してもらっていたんだ。アメリカ人として現地の役に立てれば、という思いがあったんだね」

「われわれは国境なくひとつ、同じ人間」という意味をこめ、シリーズ名に「パンジーン」と名付け、ロゴとともにパンゲア大陸が描かれた地球、そして「Handcrafted in Vietnam」の文字が焼き印されている。ベトナムでつくることに誇りをもつ表われだろう。

新シリーズ”パンジーン”。うつくしいホワイトアッシュは使い込むほどに味わい深いものとなる。

「パンジーンシリーズを見ると、本当に完成度が高い。最初にベトナムメイドになったときはひどかったんだよ。でもこの10年で腕もあがって、機械も進歩した。これからが本当に楽しみだよね」

「A&F ALL STORIES」の読者には気づかれた人もいるかと思うが、A&Fが扱うブランドは、すでに取引のあるブランドから紹介されてはじまるものが多い(チャコやダーンタフなど)。それはそれで、つながりを介したひとつのドラマであるのだが、バイヤーは赤津会長が欲しくて探し出したブランド。そんなバイヤーの、次なる展開を楽しみにしたい。

(文=牛田浩一 写真=伊藤 郁、A&F)

*このページは、A kimama(www.a-kimama.com)にて、2018年に連載の「A&F ALL STORIES」を掲載しています。

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