息を吹き返した伝説のバックパック。アウトドア界のレジェンド、デイナ・グリーソンが作る 「ミステリーランチ」

 

高次元のフィット感とユニークで使いやすいデザイン、質実剛健なものづくりが、ユーザーの心を鷲掴みにする。

アメリカ・モンタナ州ボーズマンで生まれ、世界中のフィールドで愛されるバックパック「ミステリーランチ(MYSTERY RANCH)」。類を見ない合理的なギミックと堅牢な作りで、山岳ガイドをはじめミリタリーやハンティング、森林消防隊ものづくりといった過酷な現場で活動する人々から絶大な支持を集めているバックパックだ。
創設者はアウトドア界のレジェンド、デイナ・グリーソン。かつて伝説的なバックパック「デイナデザイン(DANA DESIGN)」を世に送り出したデザイナーといえば、ピンとくる人も多いだろう。
2013年からディストリビューターとなったA&Fの赤津孝夫会長はミステリーランチとの出会いをこう振り返る。
「OR(アウトドアリーテイラーショー)やショット・ショーで顔を会わせていたから、デイナのことはよく知っていました。バックパックを新たに輸入するなら、職人として、人間として魅力的な背景がきちんとあるデイナのミステリーランチしか考えられませんでしたね。1995年、デイナはデイナデザインを売却し、バックパック製作からいったん退きました。そして、2000年に再び奮起してミステリーランチを立ち上げた。ブランドこそまだ20年弱だけど、パック製作のノウハウは40年以上積み重ねてきた実績があります」
3大バックパックブランドといえば、このミステリーランチに加え、いずれも米国の「グレゴリー(GREGORY)」と「オスプレー(OSPREY)」。グレゴリーの創設者、ウェイン・グレゴリーとも親交が深い赤津会長は、デイナとウェインの人柄について、こう話す。

「職人気質でモノづくりにこだわるってところは、すごく共通していますよね。ベルトを縫い付けてループをつくるデイジーチェーンをデイナがはじめて採用すると、ウェインもすぐに新しい機能を開発するといった具合に、お互い刺激しあいながら作っていたんじゃないですか。ものすごく仲がいいんだけど、ライバル視もしていたと思いますよ。以前、雑誌の対談で“ミステリーランチっていいよね”って言ったら、ウェインが“いや”ってムキになったことを覚えていますよ。ウエストベルトのスタビライザーがなくても簡単に体にフィットさせるシステムは、ミステリーランチの真骨頂。あれのことを言ったんですけど。ライバル視するということは、いいものを作ろうという姿勢の現れですから、ふたりはよい関係だと思いました」
 

デイナデザインに続き、アウトドアバックパック業界を牽引するミスタリーランチを立ち上げたデイナ・グリーソン。バックパック界の巨人だ。

1995年、デイナは世界中のアウトドアズマンに愛されたデイナデザインをK2グループに売却した。その後、モノづくりから離れ、世界各地を飛び回って、スキー三昧。そんななか、娘のアリスに「わたしのパックを作って」と頼まれ、数年ぶりにミシンを踏むことに。
使い手のことを頭に浮かべて作ったウエストパック。それを手にした娘アリスのひと言で、デイナの第二の人生が歩きはじめた。

「これステキじゃない!」

これがミステリーランチのはじまりだ。
だが、問題がひとつあった。デイナデザインを売却したときの契約書に一定期間アウトドア用のバックパックを作ってはいけないとの規約があったのだ。ヤキモキした気持ちを抑えるべく、フィールドに出向いてはユーザーから意見を聞き、彼らの使い方を研究しては、新しいバックパックのアイデアを温めていった。
現場でユーザーと触れ合ううちに、優れた機能を搭載しても使いこなせていない人が実に多いと感じた。ここから、ミステリーランチの十八番となる「シンプルな調整で、誰もが満足のいくフィット感を得られるバックパック」を作ろうと思いついたのだ。
2004年、アメリカ海軍特殊部隊“Navy SEALS”で採用されたことが転機となり、シビアな現場で生まれるニーズを形にすることで確固たる信頼を得ていく。そして、ミリタリーで磨いた技術やノウハウをあらためてアウトドア用のバックパックへ落とし込んでいった。
ホームページをみるとマウンテンと同じくらいミリタリーのラインナップが豊富なのは、そのためである。マウンテン、ミリタリー、エブリデイキャリーにファイヤーとハンティングの2つを加えた5つのカテゴリーが、現在のミステリーランチの柱となっている。

 

右)背面パネルとメインパックの間に獲物を挟んで、持ち運べるハンター用のバックパック「ピントラー」。左)デイナ・グリーソンが生み出したモデルのなかでもっとも人気のある大容量バックパック「テラプレーン」

「アメリカでは、若い人たちがハンティングに興味を持ちはじめていて、人口も増えています。銃ではなく、ボウハンティングやアーチェリーハンティングなど、よりプリミティブな手段で動物を獲るというスタイルです。キャンプをしながら野生動物がどういう行動をしているかを観察し、生態を学ばなければいけません。だから長期間キャンプをすることになって、大きいバックパックが必要になる。テントを張って生活するマウンテニアリングやバックパッキングと一緒ですよ。動物を獲ったら獲ったで、山中で解体して背負ってくるわけだから、背負子が付いたハンター用のバックパックもあります。アメリカではそういう新たな需要が生まれ、デイナは柔軟に対応しているのです」

ミステリーランチは、新たな分野でいままで見たこともないようなバックパックを作るかもしれない、というワクワク感を抱かせるブランドだ。新たな時代を切り開いていくパイオニア・スピリットをバックパックの隅々から感じるのだ。

「ミステリーランチの考え方は、ワンタッチで自分の体に合わせて調整し、いつでもどこでも気持ちよく使えるものであってほしい、ということ。いちばんの特徴は、背面長が無段階に調整できることです。この機能がミリタリーにハマったんですね。たとえば、大事な通信機器を背負っている兵士が倒れたとします。その男のパックを誰かが背負わなければいけないときに、その場でサイズを合わせて、誰でもストレスを感じずに背負って行動できる。このフーチュラヨークシステムが、ミステリーランチをここまで成長させた特筆すべき機能といえるでしょう」
 

本社、工場があるモンタナ州ボーズマンは、アメリカ屈指のアウトドアエリアだ。周囲を山や渓谷に囲まれた環境で、製造現場とテストフィールドとの距離が近く、スムーズに現場の声をプロダクトに反映しやすい。

親友ともいえるデイナがこだわりを持って作るパックを日本で長くとり扱えるようにと、赤津会長は10年後、20年後のミステリーランチの将来を見据えている。

「いまデイナの息子、D3(ディー・スリー)がデザイナーをやっていて、彼が跡を継いでいくんでしょうね。2代目が育っているからデイナのものづくりを継承できると思っています。跡継ぎがいないと、売っちゃうか、やめちゃうしかないでしょ。D3はアウトドアもやるし、ヒット商品も送り出しているのでデザイナーとしては優秀ですよ。なんでD3かって? デイナ・グリーソンはD2。おじいちゃんから、ずっと3代同じ名前なんですよ。デイナ・グリーソン、デイナ・グリーソン、デイナ・グリーソン(笑)」
 

D3がデザインしたバックパックを背負うデイナ・グリーソン(右)と息子のD3(左)。photo by Tim Gates

かつて世界のアウトドア業界を席巻したブランドと、自らの名前を息子につけたデイナ・グリーソン。そこからは一度は手放したブランドをもう手放すもんかという信念と、家族とともに新たなデイナをいちから築きあげよういう熱意のようなものが伝わってくる。

(文=森山伸也 写真=A&F) 

*このページは、A kimama(www.a-kimama.com)にて、2018年に連載の「A&F ALL STORIES」を掲載しています。

ミステリーランチ

米軍の特殊部隊を中心としたミリタリー、森林消防隊、救急医療隊、山岳ガイドなどに採用され、究極のバックパックとして名高いMYSTERY RANCH (ミステリーランチ) 。創業者のデイナ グリーソンは、30年以上バックパック業界の第一線に君臨し続けているデザイナーです。元修理職人としてバックパックの弱点を知り尽くしていた彼は、パックの本質をよく理解していました。 デイナは1970年代にバックパックを作り始め、後にデイナデザインを創立しました。現在では多くのメーカーに採用されている革新的なアイデアを次々とカタチにし、バックパックに技術革新を起こしたと絶賛されました。その後、デイナデザインはK2社が買収しデイナはデイナデザインを離れました。K2社と競合する事業を一定期間行わないことを定めた契約の終了を待ち、デイナが再起を掛けて2000年に設立したブランドが、MYSTERY RANCHです。 デイナの理想はシンプルです。それは、過酷な状況下でパックをハードに使い込むユーザーに対し、抜群に心地よく、並外れた耐久性を持つパックを提供すること。その実現のためには、たゆまぬ革新性、斬新な思考力、高品質な材料、新しい技術が求められます。困難な道のりですが、デイナを中心としたMYSTERY RANCHの開発チームは日々改良を重ね、ユーザーからの信頼を勝ち得ています。常に「これ以上のクオリティはない」といえるほどの製品を目指すMYSTERY RANCHは、何よりもユーザーの声を重視します。サポートしている各分野のプロフェッショナルからのフィードバックと、MYSTERY RANCHの誇る最高の技術がバックパックを日々進化させているのです。