2006.10.06

アメリカ、"Henry's Fork" という川

千葉 琢己

10月初旬、成田国際空港からアメリカのシアトル・タコマ国際空港へ。アメリカ入国時に税関でひともんちゃくありつつも無事国内線に乗り込み、ビックスカイで有名なモンタナ州・ボーズマンへ到着したのが、自宅を出てから約18時間後。毎年同じルート、同じ行程だが今年は何かが違う。この歳になって初めて思い知る時差ボケのつらさ、そして体力。見た目は若作りだが、着実に体力の衰えが訪れることを改めて実感した今年のアメリカ釣行初日。

ボーズマンの空港でレンタカーを借り、一路目指すはアイダホ州・アイランドパークへ約2時間半のドライブ。途中には、映画「リバーランズスル-イット」が撮影されたマディソンリバーやイエローストーンナショナルパークなど景観がすばらしい。釣好きでなくてもドライブを楽しめる。それになんといっても今回のレンタカーは「キャデラック・エスカレード・ロング」デカイ、多機能、大迫力。しかもほぼ新車状態なのだから楽しくないわけがない。しかしレンタカー代がいつもより高い。まぁ、それは日本に戻ってからゆっくり考えよう・・・。今は楽しまなければ・・・。

モンタナ州をぬけ、アイダホ州に入り20分程で今回の目的地「ラストチャンス」そして「ヘンリーズフォークリバー」が目の前に広がってくる。1年ぶりの「ラストチャンス」、友人達は元気にしているだろうか?この地で知り合い、そして意気投合した友人達との再会、それが今回の目的のひとつ。

車を降りると懐かしい顔が次々に目に飛び込んでくる。長旅で疲れていたはずだが、自然と笑顔になり、握手を繰り返しバカ話で盛り上がる。そして私が父のように慕い、ネイティブアメリカンネームをつけてくれた恩師との再会。彼はいつもと変わり無く、大きな手で私を強くそして暖かく包み込むように抱きしめながら、「おまえは家族の一員なのだから、この場所に帰ってくる義務がある」と低い声でささやく。ここに今年も戻ってこられて良かった。ほっとする瞬間。この一瞬のためにこの1年間生きてきたような気がする。

さぁ、明日からは釣三昧だ。 「ラストチャンス」に来て3日目PM3:00。それまでそこそこの釣果はあったものの満足するほどではなかった私の目の前に信じられない光景が広がる。その日は早朝からどんよりとした曇空、今にも雨が降ってきそうな天気。案の定雨は降り始め、午後近くになると雨脚は強くなってきていた。今日は観光と割り切り、友人と二人で上流にある湖や森の中を散歩して過ごしていた。

しかし雨が弱まるにつれ釣人の悪い虫がうずき始め、車は「ランチ」と呼ばれる場所へ戻ってきている。「まぁ、今日は釣れなくてもいいや」などと強がりを言いつつ軽い気持ちでロッドをつなぎ、身支度を整え、雨の降り続いている川の中に立っている。そんな自分を客観的に見ると、時々どうしようもなくイヤになる時がある。釣人の悲しい性だ。

ゆっくりと過ぎる時間を楽しみながら川の中を歩く。そんな些細なことで満足していたが、気が付くと雨は止み水面は鏡のように静かに流れているだけだった。少しずつ「ベイティス(コカゲロウ)」のハッチも始まっているようだ。20分後、水面をそれはおびただしい数のベイティスが埋め尽くし、それに合わせたかのように鱒達も狂喜乱舞する。しかも今年初めて目にするような大きな鱒ばかり。鱒達がライズ(捕食行動)を繰り返している中、手をかえ品をかえフライを交換しキャストをしたが、一向に釣れる気がしない。よく見ると鱒達はベイティスが6〜10匹ぐらいの塊になったものを捕食しているようだ。そんなクランプフライ持っているわけが無い。

半ば諦めかけた夕闇迫る午後6時半ごろ、ハッチも一段楽しライズも終わりに近づいてきていた。そして何事も無くライズは終焉を告げ、水面はいつもの静けさを取り戻す。友人達が待つロッジに帰ろうと川の横についているトレイルを歩いていたとき、突然私の目に飛び込んできたのは、1尾の大きな鱒が私の5m前でまだライズを繰り返している姿だった。

今日最後と思いキャストしたサイズ18番のCDCダンが鱒の口の中にゆっくり消えていく。10分程の格闘の末、私の差し出したネットの中で横たわる大きな鱒。心地よい疲労と満足感に包まれ、この日の奇跡は終わった。 この場所に来て何日か経った恩師との釣り。彼の釣りを見ているのはいつも勉強になる。そしてなにより楽しい。二人で川原に座りゆっくり話をする。近況や悩み事など。彼は親身に相談に乗ってくれ、最後にこう付け加える「おまえは私の家族だ。だから強いはずだ。負けるな」と・・・。何度も彼はそう言って私を励ましてくれた。

彼の前では型の良い鱒がライズを散発的に繰り返している、なかなか手強そうだ。彼は諦め、私にやってみろと言う。恩師の彼が釣れないのに私に釣れるはずがない。何回かキャストを繰り返すが、私のフライにはやはり見向きもしない。彼がサイズ22番のスピナーを使えと言う。そんなものもっていないことを彼に告げると、彼は自分のフライボックスからそのフライを私に差し出す。仕方なしそのフライを付けてキャストしてみる。2投目、フライが目の前から無くなっている。彼が私の名前を叫ぶ。ロッドを上げてみると鱒がフライに食いついている。

二人でネットに入った鱒を眺めながら彼はこう言った「これはこのヘンリーズフォークからおまえへの贈り物だ。だから強く生きろ」と・・・。その言葉を聞きながら私はこう思った「そして貴方から頂いた最高の贈り物だ」と・・・。

最終日。ヘンリーズフォークはまたも私に贈り物をくれた。しかも今回の旅で一番大きな鱒だ。気を良くして歩き始めると、目の前にまたも彼がいた。同じ時間、同じ場所、私は確信する。やはり今回も彼が釣らせてくれたのだと。そしてネイティブアメリカンの血を引く彼は、何か他の人にはない力があるのだろうと・・・。

レポーター紹介
千葉 琢己

A&Fカントリー銀座松坂屋店店長。フライフィッシングを10歳の頃から始め、釣暦約20数年。アメリカのトラウトはもちろん、オーストラリアのバラマンディとサラトガ、そしてアルゼンチン、パタゴニアなど時間ができれば寝る間も惜しんで釣り歩く。今後はフィンランド、アイスランドなどの北欧へ行こうと画策中。