2006.06.05

古くて新しいウール

赤津 孝夫

人間の皮膚に近いメリノウール

寒いときにウール製品を着るのは当たり前ですが、最近、天然素材嗜好の高まりとともにオーガニックコットン、リネン、ヘンプ、にならび季節に関係なくウールが大きく注目されています。ウールは我々の皮膚に生えている人毛と同じタンパク質で、最も皮膚に近い天然繊維と言えます。この羊毛から作られた繊維であるウールを利用してきた歴史は、8,000年以上もあり人類が地球上の苛酷な環境の中で適応し生き延びられたのはウールのおかげです。羊毛を取る羊は世界中で12億等も飼育されていますが、18世紀までは王侯貴族の大切な所有物で、ウールの織物や製品は庶民には手の届かない憧れの高級品でした。ウールの中で洋服素材として一番親しまれているメリノウールは、素肌にもなじみ髪の毛の7分の一の24ミクロン以下の細くてソフトで縮れが多くしなやかでしかも純白なことで人気が高いです。優れた特徴を持つメリノウールは、純血メリノ種の羊からとれるウールで12世紀のスペイン帝国で生まれました。優れた羊の品種改良技術を持ったローマ人と北アフリカの牧畜民族ムーア人の支配が長く続く中で、スペインメリノが誕生しました。このメリノ羊は、国王が法で厳しく輸出を禁止しスペイン大航海時代を作った莫大な資金をもたらしたと言います。

ibexメリノウールの特徴

(左から)従来のウール、超極細メリノウール、ポリエステルファイバー

現在メリノウールの生産はオーストラリア、南アフリカ、ニュージーランドの順で、全世界生産量は60万トンありニュージーランドの生産量は8000トンで1.33%過ぎません。それぞれの生育環境の違いから品質に差が見られ、中でもibexで使われているニュージーランド産のメリノウールは、適度な降雨と温暖な四季の変化に恵まれた2000mを越す山岳地帯で、急斜面に自生するハーブを餌にメリノ羊が放牧され育てられています。1年を通じて充分な栄養を摂取し、細く繊維長があり引っ張り強度に優れた特徴を持っています。細く繊維長があることは、糸にしたとき均質で毛羽立ちが少なく美しい表面感があり、素肌に着用しても全くチクチクしません。繊維の太さを表す単位の繊度は、ニュージーランドメリノウールが13ミクロンから始まり平均繊度19ミクロンであるのに対しオーストラリアは21〜22ミクロン南アフリカは 22〜23ミクロンですから、ニュージーランドメリノウールは最も細番手の希少な高品質メリノウールと言えます。

アウトドアに適したウールの特徴

1年を通じて羊の身体を暑さ、寒さ、風雨から守るウールは、人の身体を守るうえでも優れた性質を数多く持っています。今までは人工的に作られたレーヨン、アクリル、ポリエステルといった化学繊維で作られたアンダーウエアーが主流でしたが、ウールの優れた特徴を生かした製品が作られるようになり使用感から注目されてきました。今までの製品と大きく異なる点は、原材料の羊毛産地を特定し繊維の細さを均一化し厳選した品質でつくられていることと、家庭で気軽に洗濯機を使用して洗えるようにマシンウォッシャブル加工されたことで、ウールの概念を変えた画期的な新しい繊維に生まれ変わっていることです。ウールは寒い冬の物と思われていましたが、今ではウールの靴下を一年中愛用しているアウトドアマンが多く、夏でも蒸れにくく汗臭くなりにくくサラッとした清涼感を体感しているはずです。

汗冷えせずムレない

ウール繊維の表面はウロコ状のスケールになり水の分子は通しませんが、水蒸気は通し内部に吸収できる構造で外へ発散することができます。そして皮膚と繊維の間の湿度が90%を超えるとスケールの先端が自然に開き、スケールとスケールの間に小さなすき間ができ、そのすき間から汗が内部に吸収されます。ウールは自重の40%までの水分を吸収しても表面は乾いた感じを保つのは、表面のスケールは汗をはじく性質があるからです。山登りや激しい運動をした後、汗でびっしょり濡れたウェアのままでいると、ゾクゾクとした寒気を催すことを汗冷えといいます。空気を1として水の熱伝導率は24倍もあります。濡れたウェアが身体にはりつき、汗が蒸発するとき気化熱で体温を奪い体力の消耗にもなります。ウールの場合はウール表面のスケールの撥水性で繊維表面に汗は付着せず、繊維間のすき間が汗でふさがれることがないので通気性が保たれ快適なわけです。

冬暖かく夏涼しい

寒いときにウール製品を着用することはあたりまえですが、ibexの薄手ウールシャツなら夏でも快適に過ごせます。ウール繊維はらせん状の縮れが複雑に絡み合って、断熱作用が最も高い空気を体積の60%も蓄えているので外気の暑さ寒さから身体を守ってくれます。汗をかく暑いときは、汗の湿気を外へ放出するときの気化熱の冷気を保ち逆に涼しくなります。さらにウールの吸湿力は綿の2倍、アクリルの7倍、ポリエステルの40倍もあり汗をすばやく大量に取り込むので、ドライ感もあります。

汚れにくい

撥水性の高いうろこ状のスケールを持ったウール表面は、水性、油性どちらの汚れでもはじくので繊維内部に入りにくく汚れにくいです。それに繊維内部の高い保水率で乾燥した環境でも静電気が発生しにくく、チリやほこりの汚れが吸い寄せられずとれやすい性質を持っています。

消臭と抗菌作用

(左から)メリノウール、ポリプロピレン、コットン、フリース

ウールは通気性が高くムレにくいため汗をかきにくいのと、汗を内部に取り込まないため汗くさくなりにくいです。さらにはじめから自然に持っている金属イオンと、我々の皮膚と同じ免疫作用で消臭と抗菌作用が備わっています。焚き火に強い繊維内部に水分を多く保有しているウールは、我々の皮膚を保護している人毛と同じ成分で発火温度が高く難燃性で火に極めて強い繊維です。化学繊維は熱で溶け炎を出して燃えますのでひどい火傷になる危険がありますが、ウールはたとえ火がついても溶けずに炭化するだけで、有毒ガスを出すこともなく火元を遠ざければくすぶって消えるので安全です。分子の中に燃焼を止める窒素を多量に含んでいるからです。航空機の内部に使われていることをみても火に対して安全性が高いことがわかります。

その他には・・・

繊維の中で最も弾性が高いウールは、ソフトでしなやかなことから形崩れしにくく身体のどんな動きにも追従でき運動を妨げません。バードウォッチングや野生動物の写真撮影で、着ているウェアと枝がこすれて音が出ると致命的ですが、ウールウェアは音がしないので近寄るのに効果的です。おしゃれな人が気にするしわについては、スプリング状の縮みの弾性から湯気の出るバスルームに吊るしておくだけで、しわが簡単にとれます。自然環境と一体になった中で生産されるウールは、化学繊維と異なり一切環境負荷を出すことなく、不要になったら生分解して土に戻るので地球に最も優しい繊維と言えます。

レポーター紹介
赤津 孝夫

1947年長野県生まれ。日大芸術学部写真学科卒業
幼少時より道楽好きの父親の影響で、釣り、狩猟、山登りなどを通して四季の山野に親しむ。1970年代の初頭、日本にフライフィッシングとバックパッキングを紹介した芦沢一洋氏と出会い、エコロジーに根ざしたアウトドアスポーツの必要性を感じ、1977年アウトドア用品の輸入販売会社A&Fを創立。「スポーツナイフ大研究」(講談社)、「アウトドア200の常識」(ソニーマガジン)、「アウトドア・サバイバル・テクニック」(地球丸)、の著書がある。