2008.04.01

フィリピン・ブスアンガ遠征

八幡 暁

ここ数年、海の難所をシーカヤックで越えてきました。今回は、ルソン島からミンドロ島へ渡り、ブスアンガ島へ渡ります。40Kmを越える海峡横断が3箇所。
「今年は、余裕で渡れそうですね、距離も短いし」
周囲の声と裏腹に、内心、僕は気を引き締めていました。
情報の無い海を渡ることは難しいのです。事前の予測は、海図が頼りです。当然、想定外のことが起きやすく、最悪の事態を考えて作戦を立てていきます。

  • 干潮、満潮に向かうときの潮流の方向とスピード。
  • スタート地点から、流されてもよい距離。
  • 風と波の大きさ。
  • 自分が漕ぎ続けられる時間、スピード。

どの地点で、どういう状況まで進むか、どうなったら撤退するのかの線引きをしていきます。現場での判断は、曖昧になりがちなので予習しておきます。海と自分の力を確認していく大事な作業です。

沿岸を漕ぐことと大きく違うところは、エスケープルートの選択肢が少ないことだと思います。天候の急変や体調の急変などが起こるとします。沿岸の場合、“上陸”という選択肢があります。最悪、カヤックを上げられなくとも、体だけでも陸に上がれれば、生き延びるチャンスは大きくなります。
しかし、海原の上でカヤックから離れればすぐに危険な状態になります。予期せぬ事態が起きても漕ぎぬかなければいけません。ともかく漕ぎぬく為の体と心の準備が必要です。

こうした海を、フェザークラフトに乗り、3人の男で渡りました。ルソン島からミンドロ島へ渡る、一つ目の海峡横断のレポートです。

出発地、ルソン島南部の街、カラタガンに到着。漁師から、海の情報を集めます。
大きな特徴は3つ。

  • 海は常に南シナ海に流れている。
  • 波が大きい
  • 風が強い

情報が正しければ、どれもカヤックにとってはやっかいな話です。ビーチに立ってみると、全くの凪に見えました。風裏を見ているから静かだとも言えます。半島を越えて、海峡に差し掛かれば、一気に風が抜けるかもしれません。3人は、自分達の予測と照らし合わせながら慎重に段取りをしました。

もし、風と潮流で西へ時速5km以上のスピードで流れていたら、沖に出る前、沿岸沿いに風上へ上ることにします。時間がかかっても、南シナ海に流される、という最悪の状況を避ける為です。なぜ時速5kmなのか。スタート地点より南シナ海までの距離は西へ30km。時速5kmで海が流れるとすれば、6時間で大海へ流されます。島と島の間は南へ向かって40km弱。ここを8時間で漕ぎぬく予定です。単純に考えて、南へ島を目指して漕ぎ続ければ、6時間経過した時点で島を外してしまうことになります。南東へ進路をとれば、流れに逆らいながらの航行になり、10時間、12時間と時間がかかってしまいます。不測の事態が起きた場合を考えると、12時間以上。夜間の航行も考えなくておかなくてはなりません。夜は、リスクが増大します。流れが強ければ、スタート地点を東にスライドする必要があると思っていました。

風を遮っていた半島を出てみると海は南にゆっくり流れ、北東風が風速5mほどで吹いていました。本来、この風ならカヤックは南西に2-3kmで流れます。西へ向かう風と東への流れが相殺されたのでしょう。つまり、潮流は早くても2-3kmで、南シナ海でなく、内陸へ向かって流れているとわかりました。

この時点では、漁師の話が違っていることになります。僕らの経験を元にした予測があっていました。上げ潮では南東から東よりの流れ、引き潮には西への流れになると考えていました。それでも注意しながら毎時間、海の流れをチェックしていきます。そして、この海の流れの予測が、確信に近づいていきました。

3人のペースがずれて、差が開きます。波間に見えなくなりますが、声が届くくらいの距離を保ちながら進んで行きました。自分達のスピードが予定より遅れがちでしたが、心配はありません。海の流れ、風、波、全ての状況を今のスピードに当てはめてみても、危険に陥ることはないところに来ていました。

荒れた海では、水を飲むことさえままならないことがあります。しかし、今回は、カロリー補給も出来ていました。長時間の航行の心配もなくなり、エネルギー切れを起こすこともありません。残り20kmを切った時点で、カヤッキングの心配は無くなっていました。気をつけていたののは、体調の急変、日射病や熱射病の類です。体に水をかけて冷やしながら進みました。

漕ぎながら僕は漁師の言葉を考えていました。なぜに地元の漁師は、海を読み違えたのか。彼らが使っているアウトリガーカヌーの形と耐久度。南シナ海に漂流する恐怖。どれだけこの海で漁師の命がたたれのか、ということを考えると理由もわかる気がしました。

ミンドロ島は、海面から一気に1000m以上かけあがる山が連なっています。熱帯ジャングルが斜面に張り付いているのです。緑が緑に絡みついていました。海岸のわずかな平地に、椰子の木が生い茂り、天然素材とわかる小さな家々が見えます。海の緊張感から開放され、今度は、はじめての海の民と接触する緊張感に包まれていました。
これから、フェザークラフトならではのワンウェイの旅に入っていったのです。
この続きは、4月10日発売のカヌーライフに掲載されました。興味のある方は、是非、そちらをご覧ください

レポーター紹介
八幡 暁
八幡 暁

手漕屋素潜店ちゅらねしあ代表。普段は、西表島から石垣島まで、アイランドホッピングやキャンプ、シュノーケリング、シーカヤックを使った自由な旅の道先案内人。そこで得た稼ぎを、自分のシーカヤックの旅につぎこんでしまう放蕩者です。スタッフに見放されないよう精進の日々。が、A&Fの好意により、放蕩に拍車がかかり、海を渡り続けています。

グレートシーマンプロジェクト 手漕屋素潜店ちゅらねしあ