2009.07.01

槍ヶ岳(飛騨沢) バックカントリースノーボード トリップ

旭 立太

目の前に広がる素晴らしい景色。真っ白な広大な斜面がいつまでも続く…

「ここからスピードつけて、でっかくフロントサイドでターン、そこから一発バックサイドでバンクに当て込んで…あそこのクリフを…」等と口元をニヤつかせながら、地形を見る。頭の中で積雪や風のコンディションを加味しながら、ラインをイメージ。まさに今、僕は8時間という長いハイクを終えて滑走の準備をしている。

飛騨乗越

正面には笠ヶ岳、抜戸岳、白山、黒部源流の山々。そして、背後には日本のマッターホルン「槍ヶ岳」が、その名の如く天に穂先を向け聳え立つ。 そのピラミダルな山容にふさわしく四方に尾根と沢があり、尾根は東西南北に 東鎌、西鎌、槍穂高、北鎌、沢は東南に槍沢、南西に飛騨沢、北西に千丈沢、北東に天丈沢。まさに日本アルプスの十字路。
今、僕のいる飛騨乗越は標高が3020mと日本一高い峠である。斜度や地形的な魅力から少し大喰岳よりのあたりから、飛騨沢にむけてドロップイン。

「槍ヶ岳をバックに滑ろう」 こんな計画が持ち上がったのは、2008年12月の事。 1泊2日で槍ヶ岳へ行きその周辺エリアを滑ろうというものだ。 5ヶ月以上も前に計画を準備したにも関わらず、仲間内のスケジュールが合わず中々、実行できずにいた。色々なフィールドへ出掛けしつこく滑っていたこともあり、今期のバックカントリーでのライディングに満足していた部分も若干あったのが遅れた理由のひとつでもあったりする。まあ、自分ながらに贅沢な理由だ。結局、スケジュール調整がついたのが5月中旬。もちろん、岐阜、長野のスキー場はすでに営業終了している時期である。

当初、予定では槍沢ルートで上高地より槍ヶ岳に向かう予定であったが、 決行の数日前、釜トンネル付近の土砂崩れで中の湯〜上高地間が通行止め。 復旧する見込みはあるもののこれにより、上高地からのアクセスが微妙になった。 気象庁の予報や、天気図をチェック。一日目は天気だが二日目は崩れる予報・・・。

「どうする、ルートかえる?」
「日帰りで行こうか」
「1泊2日は、まったり一般的だよね。」
「日帰りの方が荷物も軽量化できるし、チャレンジ精神が沸き立つなー。」
「よし、日帰りにチャレンジするか!」

飛騨沢

という事で、自分達の体力を試してみる日帰り計画にシフトチェンジ。 新穂高から槍平、飛騨沢を経て槍ヶ岳に至るという槍平・飛騨沢ルート 往復距離27km、標高差2,000m・・・なかなかロングルートである。何するにも気持ち良い5月の温かい日。山にトレッキングへ出かけたり、川でラフティングを楽しんだり、仲間とキャンプやBBQ。 こんな日がここ数日続いていたが、5月といっても3000M級の山々はまだまだ冬山。 舐めてかかると痛い目に合う。頭のスイッチを切り替えるのが大変であった。

午前4:00 新穂高にて薄暗い中、ヘッドライトの灯りで今日の荷物をパッキング。 バックパックにスノーボードを取り付け、トレッキングポールを調整する。小鳥のさえずりが聞こえはじめ、徐々に辺りが明るくなってきた。ふと、空を見上げると笠ヶ岳がきれいな朝焼けに照らされている。今回の仲間は友人のTとHの3名。

ハイクアップ

「さあ、いくかー」 ゆるい感じで午前4:30出発。瞳は眠いが、景色は気持ちのよいスタートである。てくてく林道を歩く。目を拭いたばかりの新緑がいい感じ。ここで重要な事に気がつく、トレッキングシューズを忘れたのである。いつもバックカントリーで雪山といえば最初からスノーブーツ。今回は雪の無い部分のアプローチが長い為、荷物にはなるが、トレッキングシューズで歩いたほうがはるかに楽だ。「しまった・・・」と思いつつ、 眠かったせいかあまり気にはしなかった。むしろ旅にハプニングは付き物。

「どれだけボードブーツで歩けるか」と、自分へのチャレンジとする事にした。 あえての不便を楽しむのも醍醐味の一つである。まぁ、あまり体験したくないが。 しかしながら、注意しなければならないのは、このような小さな事の積み重ねで最悪の場合、命を落とす場合もあるという事だ。

例えば、ポールのスノーバケットを壊す→ただの棒になる→行動が遅れる→ビバーグ→凍死 なんていう最悪の事態もあり得る。アクシデントに対してどう対応するか?というのも大事な事。今回でいえば、下山する時間を常に考えて、余力を残して余裕のある行動するという事が僕の本日の行動原則となった。

林道を40分程歩くと、穂高平小屋へ到着。ここは牧場のような広い草原で山々の展望もいいし、小休止するには気持ちのよい場所だ。さらに道を進む。 白出小屋に、到着。穂高への直登ルートがある。林道はここで終わり、目の前には大きな白出沢。川原を渡り、ここから登山道に入る。

滝谷

岩や、大木が横たわり、中々歩き応えのある森の中のいいトレイルが続く。 トレッキングスタイルなら問題ない道ではあるが、ボードブーツに、 長さ164cmの板を背負っている僕のスタイルではかなり歩きにくい。 客観的に今の自分の姿を想像したら笑えてきた。何度か雪の残る谷を横断し、2時間程して滝谷出合に到着。滝谷非難小屋の横を通り、沢を渡った。右手を見上げると滝谷ドームが見える。 「飛ぶ鳥も通わぬ」と言う形容で知られる滝谷。アルパインクライミングエリアで有名である。

岩の墓場のような荒涼とした風景は、何とも言えない独特の空気を醸し出している。滝谷出合を過ぎてから、雪が出てきた。やっと“雪”である。 スリップして滑落してしまう危険があるので、アイゼンを装着した。 さらに山道を進むと、頭上に南岳の稜線も見えた。

デブリ

「うわ〜」 みんな思わず声が出る。すさまじい光景が目に入る。ここまで何箇所か沢を横断したが、今までにないデブリの跡であった。 ※デブリとはいわゆる雪崩の跡。 冬山=危険と思う方が多いと思うが、その理由の一つに皆さんが一番最初に 思い当たるのは“雪崩”の危険性ではないだろうか。バックカントリーツアーで山に入る上で事前に確認する事がいくつかある。 出発前と期間中の積雪や、天候の状態、地形や計画ルートの出来る限りの情報収集。そして、一旦山に入ったら、積雪や気温、日射などに常に留意し、地形を見て行動する。雪崩のリスクから身を守る為だ。 今回の旅でも、そのように出来るだけ事前に情報を収集し、コンディションを確認しながら行動。幸い、当日の積雪コンディションは安定しており、雪崩の危険性は低いと判断した。雪崩についての知識を高めたい方は、“日本雪崩ネットワーク”をおススメする。デブリの谷や、森を抜け槍平小屋に到着。通常ならここで1泊、翌日槍にアタックというのが一般的。小屋は冬季営業していないが、泊まれる施設があった。

滑降前

槍平小屋から少し行くと、穂高から槍の稜線が見える。素晴らしい景色だ。 反対側の斜面にはさらに大きなデブリの跡。この斜面は槍平を襲った2008年の雪崩発生場所。この塊に巻き込まれたらと考えると、恐ろしい・・・。 中の沢、大喰沢を横目にいよいよ広大な飛騨沢へ入った。 「うわー、広い!」 ここは日本か?と思うようなロケーションが僕らのやる気スイッチをONにさせた。自然はでかく、自分はちっぽけだなぁ〜って、毎回思い知らされる‥「一気に行くぞ」と思ったがそうは甘くなかった。まだまだ槍の穂先は顔を出してくれない。気持ちは元気だが、体には疲労があった。しっかり水分補給もしながら、自分のペースで一歩一歩確実に登る。大喰岳と、槍ヶ岳の稜線飛騨乗越に到着。雷鳥が僕らを出迎えてくれた。 彼らの縄張りにお邪魔しているので、軽く挨拶。飛騨乗越に着いて目に飛び込んできた光景は常念方面の絶景。真近にある新雪をたっぷりと被った大喰岳がド迫力で大きい!同時に北アルプスで最も目立つ山、槍ヶ岳が天を突くように鎮座していた。槍に登って、槍沢を滑って・・・登り返してと色々な事を考えていたがこれからの時間を逆算すると時間的に厳しいと判断。 大人しく飛騨沢を滑って帰ることにした。 とはいえども、この広大な沢を・・・・このロケーションでと想像しただけで口元がニヤつく。

滑降

さあ、いよいよお待ちかねのライディング。雪は適度に緩んで快適なザラメ雪。 友人のTがカメラを構えてくれた。ザックのストラップをしめ、JKTのベンチレーションを閉める。心の準備もOK。深く深呼吸をする。「3―,2―,1―.ドロップ」 数時間のハイクから、快楽を求め一瞬のライディングへ・・・広大な斜面を、静寂の森の中を、ディープパウダーを。 風を感じ、音を聞き、自然の息吹を感じとる。五感をフルに研ぎ澄ませ、頼れるのは自分と仲間と、愛すべき道具達。好きな道具を持って、好きな道具に身を包み、大好きな仲間と旅出る。行きたい場所へ行き、大好きなスノーボードをする。ボクにとってバックカントリースノーボードはまさにバックパッキングの“旅”なのです。 ※バックカントリーには十分な知識、経験、技術が必要です。

レポーター紹介
旭 立太

バックカントリーガイドrhythmworks代表
冬期は岐阜をベースにバックカントリーガイドを営む傍ら 各地のフィールドにて自身のライディングを追求中。 年中、スノーボードの事を考えていたが、最近サポートを受けているLOKI取り扱いのA&Fカントリーとの出会いから、季節にあわせた遊びを知ってしまい、 山、川、海と遊びのフィールドが拡大中・・・。夏期はA&Fカントリーラシック名古屋店のイベントにもガイドとして参加。トレッキングや、リバーガイドとして活動中。 実はのんびりCAMPやバックパッキングの旅も好き。外にいるとスイッチON、家にいるとスイッチOFFのダメ人間です。