2013.12.24

くうねるあるく ロングトレイル

井手裕介

 春頃だっただろうか、現役大学生から連絡があった。PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)を歩くのでCLIF BARを持っていきたいと。この手の電話やメールは少なくない。そして学生からの依頼も多いが総じてお断りをさせて頂いている。とにかく一度は自身でチャンレンジをしてダメだったらまたおいでというパターンだ。それは少なからず企業からスポンサードされること、それを昨今は甘く見ている場合が多い。「エクスペディションをナメてる」とか「どうせ時間を持余した学生が」的なことではない。本人たちは至って真剣である、真剣なだけにサポートを受けるとそれが足枷になる場合があるからだ。今回連絡がきたのは我々A&Fのお膝元の早稲田の学生だという。一度話だけでも聞いてみようと展示会の最中に面会した。会場に現れた彼は来場しているゴツイ人間達の中では異様に華奢で本当に歩けるのかという印象であった。簡単に挨拶をし話を聞く、まぁ今までの学生達と然程変わりはない、変わりはないが、“根拠のない自信”やその逆の“謙虚さ”があまり感じられない。ようは普通。聞けばトレーニングとしてトレイルランニングや山の縦走はしているというが冷え性だともいう。そこら辺の学生に多少毛が生えたという程度だが、その普通がよかった。この語学も堪能ではない普通の学生がPCTにいって完踏できたらできたで、失敗したら失敗したで、読者に“フィールドへの一歩”を踏み出させるレポートが書けるではないかと。そして帰ってきた彼からこのレポートが挙がってきた。このフィールドレポートはプロローグでしかない、彼の旅の模様は下記で追い掛けることができる。

http://number.bunshun.jp/articles/-/767571

 【くうねるあるく ロングトレイル】

 「ロングトレイル」という言葉が、流行っているらしい。
「ロングトレイル」とはなんなのか。距離の長いトレイルを歩けば(あるいは走れば?)それがロングトレイルなのだろうか。
 アメリカには有名な「ロングトレイル」が幾つかある。中でも有名なものの一つが西海岸に位置するパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)だ。
このトレイルはメキシコ国境からカナダまでを貫くトレイルで、総距離なんと4200キロ!うん。「長さ」を基準に考えれば、どうやらこれは立派なロングトレイルと言えそうだ。
  僕は今年、このトレイルを歩いてきた。距離が長いとなれば、当然歩くのに要する時間は膨大となる。正味5ヶ月に渡った旅は、春夏秋冬、そして喜怒哀楽が詰まったものとなった。(紙面の都合上、詳細は断腸の思いで割愛。そうそう、文字通りお腹を痛めたこともあったなあ。)

 アメリカをバックパッキングで縦断。こんな表現をすると随分とワイルドな旅を想像される方もいるかもしれない。しかし残念なことに、期待に添うことができそうにない。僕は決して岳人なアウトドア野郎ではないのだから。都内に通うフツーの大学生。時間は休学制度を利用して作り、旅の資金はアルバイトと企業によるサポートで賄った。
 5ヶ月間ずっとトレイルを歩いていたと言っても、実際には4~7日に一度は町にヒッチハイクで降りて食糧や燃料の補給をし、シャワーを浴び、洗濯を済ませて暖かい食事を摂った。
 前人未到の荒野を突き進んだというわけでもなく、過去多くの馬や人によって歩かれた、いわば「歩くために」作られた道を「たどって」旅を続けた。だから、特別必要となる高度な技術も、鍛え抜かれた質実剛健な肉体も必要ない。情熱と時間があれば、誰にだって挑戦できることなのだと、改めて感じた。もちろん長期の旅に特有の大変なこともある。つまり、敷居は低い一方で、ひとたび一線を越えてしまったら底なしにディープな世界が待っているのだけれど、それは今回のところは置いておこう。
 だから、荒野を一人で切り開くような冒険野郎よりも、僕みたいなフツーの人にこそ、挑戦してほしい。いや、「挑戦」なんて言葉すら大袈裟な気もする。「遊びに」いってほしい。嫌になったら帰ってきたらいい。安全が第一だし、お金も時間もかけてやる遊びを我慢しながら続ける必要はない。単にこの遊びがあなたに合わなかっただけだ。

 さて、この「遊び」の魅力とはなんだろうと考えると、それは自由を感じられることだと思う。バックパックに衣食住全てを詰め込み、好きなだけ歩き、好きな時に食べ、好きなところで眠る。だから、誤解を恐れずに言えばトレイルは全てがトイレで、キッチンで、ベッドルームとなりうる。そうそう、たまにルームメイトもいる。それは同志であるバックパッカーであったり、或いは都会では出会うことの出来ない動植物だったりするかもしれない。贅沢なことに、BGMだってついてくる。川のせせらぎ、ルームメイトたちの歌声。ハイウェイの近くなら大型トレーラーの音にアメリカを感じられるに違いない。
初めてのバックパッキングであればあるほど、トレイルでの感動は大きい。僕がそうであったように。だから重ねて僕は語気を強めて言おう(生意気にも)
「あなたが未熟なバックパッカーであればあるほどに、あなたの旅が豊かになることを約束します。」

 最後に、冒頭の投げかけを回収したい。「距離の長さ=ロングトレイル」なのかどうかという疑問だ。僕が思うに、長さは必要十分条件ではない。長い距離、永い時間をかけて旅をすることに基づいた「文化」をひっくるめてロングトレイルという言葉があるのだと思う。“トレイルエンジェル”と呼ばれるトレイル近郊に住むサポーターの存在。ヒッチハイクを受け入れてくれる土壌、周辺の町におけるトレイルの認知度。などなど。こうした文化なくしてメキシコからカナダまでの長距離トレイルは成立し得ないし、僕自身、人や文化との出会いこそがこの旅を豊かにしてくれたと確信している。
 国立公園をバックパッキングするためのパミッションをトレイルの管轄団体がまとめて発行してくれる等、自然保護の観点とバックパッカー目線からの利便性がうまく共存している点も見逃せない。そもそも、山域でなく「トレイルの」管轄団体があるというのも面白い。
 やれやれ、醍醐味を書き始めるときりがないし、支離滅裂になりそうだからこのあたりでお茶を濁して筆を置こう。
※旅の模様は文藝春秋『Number Web』上の『ロングトレイル奮踏記』を通して現地から連載をしていた。
万が一、僕がどんな人間で、どんな日々を送っていたのか気になる方はそちらでどうぞ。URL:http://number.bunshun.jp/articles/-/767571

【井手裕介氏 PCTチャレンジに使用したA&Fギア】
CLIF BAR 6フレーバー(180ヶを無くなるまで毎日食べ続けたという、美味しさもあるが、フレーバーの種類が多かったことがよかったとのこと。)
DarnTought  1/4ソック・ウルトラライト(722マイルで踵が擦り切れる。1足、約1,160km!)

レポーター紹介
井手裕介
井手裕介

1992年1月4日生まれ。AB型。冷え性。
現在早稲田大学休学中。2013年春よりパシフィック・クレスト・トレイルへ。
なんやかんやありましたが、多くの人に支えられて踏破できました。ありがとう!