2014.11.14

走作楽天 ~Digonale des, Fous(愚か者の対角線)– le Grand Raid Reunion編~前編

渡邊 千春

足元はシェイプシフタ―ウルトラ

【走作楽天 ~Digonale des, Fous(愚か者の対角線)– le Grand Raid Reunion編~前編】

チャプター1 ~ドラゴンボールの予感~

 会社員生活25年。それとは知らず勤務先の香港でトレイルランを始めて15年。海外のレースに出場し始めてから5年。ついに私は、赤道を越えたインド洋に浮かぶ島、フランスの海外県であるレユニオン島までやってきました。今年で第22回目(?一説には25回目)になる100マイルのレース(le Grand Raid Reunion“GRR”)に出場するためです。最もメジャーな100マイルのレースであるUltra Trail du Mont Blanc (“UTMB”) が今年で第12回目ですが、GRRは、GRRも選ばれているウルトラトレイルワールドツアー(UTMBやUltra Trail Mt. Fuji(“UTMF”)も含む)の中で最も歴史が古いのです。この走作楽天シリーズにもたびたび登場する私と国内外のトレイルレースに参加しているVincent Chautard(現在、フランスのマルセイユ在住)も、この大会の黎明期に出場したことがあり私に参加を強く勧めていました。しかし、本当に来る日が来ようとは!ヨーロッパであれば日本から6000マイルぐらいですが、私はフランスのパリ経由で12000マイルという距離を移動し、この島にたどり着きました。とにかく遠い島ですが、滞在するSt Denis(サン・ドニ)の街に着くと庭木として竹が生えていて、これだけで街並みにはヨーロッパよりもかなり親近感を感じます。                                                                  

 私は、トレイルランニングの趣味が高じ、年に1・2度国内外のウルトラトレイルと言われる100マイル(160㎞)前後の超長距離のレースに出場しています。私がトレイルランニングに魅せられている一番の理由はアスリートとして、又はプロフェッショナルとしてのランナーのバックグラウンド、コースである山岳地帯の地形、気候、風景、足元の状態等のコースコンディション、ランナーのウェアのレイヤリングやコーディネーションと何から何まで多彩だからです。レースは、これらの多様な要素が織りなすドラゴンボールさながらの異種格闘競技です。アフリカに近く、インドやアフリカやフランス本国を始め移民を多く受け入れ多様な人々が住み、活発な火山活動の影響をうけたユニークな地形であるレユニオン島で行われるレースであれば、異界からの達人と規格外のトレイルで勝負できるのではないかとの期待が膨らみます。

"Reunionの内陸部。深い谷と、滝と、見渡す限りの山"

 現地で知ったのですが、UTMBをしのぐ歴史を誇るウルトラトレイルの島だけに、ここではトレイルランが国技のように盛んで、ランナーの間では半ば信仰と化しているようです。あるブランドのお店は、世界中でレユニオン島の売り上げが一番高いという話で、また、どうやって計測したのかも定かではないですが、トレイルランナーの人口密度が世界でもっとも高い地域だとも。ますますレースが楽しみになります。別名「愚か者のための対角線」というこのレースはワンウェイで、海抜0mの島の南の海岸にあるSt Pierre(サン・ピエール)をスタートし、Nortre Dame de la paixという標高1500mの山小屋(教会?)までは北東にコースを取り、そこから北西にReunion島の愚か者の対角線を北上します。途中、最高峰のPiton de Neiges付近の2500m近い最高地点を含む2000mを超すピークを3つ超え南の海岸地帯から、島の中央部の山岳地帯に移り、Maidoという最後の2000m峰を超え、島の北部の海岸地帯そしてフィニッシュ地点のSt Denisに向かいます。途中関門時間がいくつか設定されていますが、65時間でフィニッシュしなければなりません(今回は、一部通常コース崩壊の影響でコースの距離が延び最終関門は66.5時間に延長)。距離172㎞、高低差9996mと世界強度最強のウルトラトレイルレースです。

 今年は、夏に仲間と共に南アルプスや東北の山で10時間を超えるトレーニングを何度か行い、公園を四つん這いで走り、高い場所からの飛び降りを繰り返す等これまで以上に工夫を重ねたトレーニングも十分に出来ました。脚力や走力に頼らず重心の移動や着地の際に地面から得られる反発力を前進するエネルギーに使い、上半身の使い方を工夫し着地の衝撃は極力抑えるためのトレーニングです。この歳でウルトラトレイルを完走するためのトレーニングはとにかく何をやってもキツくて早くレース当日が来ないかと何度も思いました。こころの支えになったのは、チャレンジする気持ちです。高1になる息子が高校を一年間休学し2月にアルゼンチンに留学したのがきっかけです。言葉も生活環境も違う国で両親と離れて一年間暮らすという発想は、その歳の私にはありませんでした。ものすごいチャレンジだと思います。自分もチャレンジするのだと奮い立たせました。

 いよいよ大会前日、滞在しているSt  Denisから40㎞程の距離をバスで移動し、スタート地点のSt Pierreの公園に向かいました。100マイルレースに2300人、93kmに1200人、67kmに1200人が同日にエントリー手続きをするので公園は人でごった返していましたが、公園にはトイレが一個。波乱の予感です。でも、ドレッドヘアーの選手、ケニアの一流マラソンランナーのような体型の選手、そしてUTMFとUTMBを優勝しているフランソワ選手をはじめとするトップクラスの招待選手。期待通りの異種格闘技になりそうです。ヨーロッパのレースでは感覚的に9割以上が白人という感じですが、ここはやや白人が多い程度で様々な人種が参加しています。

"スタート前にリラックス" "スタート前"

 チャプター2 ~I am flying~

 レース当日、日も暮れた午後8時過ぎ、スタート地点のSt Pierreに舞い戻りました。いるいる、ドレッドヘアーを束ねて上からニットの帽子をかぶっている人、信じられないほど軽装の人(レギュレーション上、雨具などは必要だが、素材等の指定などはなく4Lぐらいのザックですべての携行品を持参可能)。身体に響くビートの効いた音楽が流れ、ランナーの多くがスタート地点でリズムを感じながら身体を動かしていました。スタート直前にUTMBで有名なMCの人が現れるとランナーの盛り上がりがピークに達し、午後10時30分にいよいよレースがスタート。沿道には両側に4~5㎞も続く三重四重の人の壁。鳴り止まないパーカッション、ドラム、ブブセラ。映画のシーンのようです。暗闇の中、高度を上げ再び人里を走り抜ける際には、ランナー一人だけが通れるほどの幅を残し、両側からものすごい声援。あの有名なツールドフランスの山岳ステージの応援です。これはUTMBでも経験がありません。鳥肌が立って、かぶっているキャップやヘッドライトをしている感覚がなくなり落としてしまったかと思いました。人里だけではなく。夜間の山岳区間にもボランティアだけではなく、相当の数のサポーターが入って鳴り物と大声でランナーを応援します。これが国技かと思わず納得。今回、レユニオン、フランス、スイスに次ぐ4番目の参加者数となった日本人には、「ジャポネ、ジャポネ」との熱い声援が飛びます。私が理想とするフォームで走っているアフリカ系のランナーを見れたのも収穫です。トレイルの傾斜に関わらず、地面に対し直立し、脚をまっすぐ地面に打ち込む。こうすれば登りは、ハムストリングや腰の大きな筋肉を使って上ることが出来ます。

 

"まずは、最初のドロップバッグに向かう前の元気なころの写真。植生がヨーロッパと全然違います"

 私の走りのハイライトはスタートからの40マイルでした。私は、ウルトラトレイルでは前半抑え、下りで脚を使い切らないように慎重な走りをすることが多いのですが、今回はチャレンジするためにリミッターを外して走ろうと決めました。St Pierreをスタート後ただひたすら高度を稼ぎ40㎞地点のPiton Textor(標高2165m)に約5時間半かけ朝4時に到着。今回も、時計や心拍計なしで走っていましたが、いいペースであることは走りながらわかっていました。想定外だったのは、Piton Textorの手前、標高1500mぐらいから激しい風雨に襲われたことです。北半球と違い、冷たい風は南側から吹くことから、島の南側の山は天気が荒れることが多いらしいのですが、北側のSt Denisに滞在している間、天候は安定し日差しも強く暑かったので、このレースは暑さとの戦いを想定していましたが冷たい雨と強風で前も見えないくらいでした。上半身にゴアテックス製のシェルを着たものの、風雨が弱まるのを期待して下半身は素肌を晒したままでした。平地の気温は20度近かったのですが、暴風雨を受け体感気温は0℃に近い感じでした。ただ、練習してきた走りは出来ていたし、足は動いたので勢いを止めずに走り続けました。Piton Textorから先は下り基調で2つある荷物を預けるポイントの最初の一つであるCilaos(66㎞地点、標高1210m)を目指します。登りのリズムを引き継ぎ、火山地帯に特有な火山岩の岩場やこの島に多いガレた下りが好きな私はさらにペースアップしました。この間、牧場を下る4~5㎞の区間ではコースの両側に3mぐらいの幅で有刺鉄線が張り巡らされていて、これに「おー、これは金網デスマッチ」と反応した私は、シュガーレイレナードのフットワークで、軽快に先に先に足を運ぶ攻撃的な足運びで攻めました。いやー、強度最強のウルトラトレイルレースで俺は、飛んでいる!!その後も雨風は時折強まりましたが、私は勢いを保ちハードに降りつづけました。後で記録を見ると、200位前後でスタートしましたが、Cilaosでは60位前後まで順位を上げました。

走作楽天 ~Digonale des, Fous(愚か者の対角線)– le Grand Raid Reunion編~第二話へとつづく

レポーター紹介
 渡邊 千春
渡邊 千春

外資系企業で働きながらも、UTMBなど海外レースをはじめ数多くのトレイルレース、イベントで活躍中のビジネスマンランナー。親子でトレイルレースへの参加やアルプス山行などトレイルを楽しむ。